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【ディランが】 アイム・ノット・ゼア 【ロック】

ボブ・ディランという人物を、6人の役者が6人の別人という設定で演じるライフミクスチャームービー。現在66歳のディランは1962年にフォーク歌手としてデビューし、その後ロック、カントリー、キリスト教布教ソングなど何度か方向性を変えながら現在も世界の音楽シーンで活躍し続けている。ミュージシャンのみならず映画俳優までもこなす彼は一体どういう人物なのか。

主演の6人は別々に登場し、その関係性は明確に描かれず、なおかつ登場のタイミングが入れ替わり立ち代りで時系列がめちゃくちゃに交錯するので非常に複雑な展開なのだが、本質的にはただディラン1人を描いている点が非常に興味深い。 配役も癖が強い。アメリカを放浪するフォークソングの天才少年を演じたマーカス・カール・フランクリンはなんと黒人の子役。映画俳優時代のディランは『ブロークバックマウンテン』でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたヒース・レジャー(残念ながら2008年にお亡くなりになりました。ご冥福をお祈りします)が演じており、その俳優は映画の中で伝説のフォーク歌手を描く映画に出演中という設定。そのフォーク歌手自体もまたディランと思しき人物であり、クリスチャン・ベイルが演じている。ベイルはキリスト教布教ソングを歌う牧師のディランの役も演じているため、ディランをよく知らない人からみたら何を描いているのかさっぱり分からないような支離滅裂なストーリーだ。

一番目を惹いたのはロック時代。フォーク歌手でデビューして売れてきたのに、急にエレキギターを持って、ビートルズに追従するかのようなロックを歌い出す。反体制的なプロテストソングを期待するファンに総スカンを喰うが、レイバンのウェイファーラーをしてスカしまくる彼は一気にロックスターとなり、アンディ・ウォーホールとその仲間たちが作る60年代ポップカルチャーを牽引していくこととなる。時代の寵児とはまさしくオレのことだ言わんばかりの自信に満ち溢れた彼を演じたのが、なんと女優のケイト・ブランジェット!!まさかこの役を女優が演じるなんて全然想像もしていなかったので、完璧なディランハマリ度に衝撃を受けた(正直最後まで男だと思っていたぐらい)。『エリザベス』、『アビエイター』などの大作でアカデミー賞の常連となり女優としての一級のキャリアを確立している彼女だが、本作でもまたまたアカデミー賞にノミネートされている。結局取れなかったが、一体なぜ受賞できないんだと叫びたくなるほどにオレのハートは完全に奪われてしまった(笑)。

監督のトッド・ヘインズはこの6人をレイヤードしていくストーリーによって、ディランという人が人種・性別を超えた表現者であるということを示唆しているのかも知れない。だがそんなイメージも彼にとってはほんの一時のものなんじゃないかな。「僕はそこにいない」。このタイトルが物語るとおり、我々の期待するような彼は、既にどこか別の場所へ行ってしまっているのだった。