【その男】 JCVD 【ヴァン・ダム】

ジャン=クロード・ヴァン・ダム48歳。90年代、『ダブル・インパクト』、『ユニバーサル・ソルジャー』、『ストリードファイター』などのB級アクション映画に出演し、テレ東の木曜洋画劇場で何度も放送されて一部から熱狂的な支持をうけた、あの最強の男ジャン=クロード。近頃めっきり出番が減った彼だったが、この度自分自身を主人公にした映画に出演した。

大手の映画に出ることがなくなった元アクションスターは、今は小さなスタジオでアジア系の若手監督のわがままに振り回されていた。のっけからいつもの激しいアクションシーンだが、他の役者の小さなミスで撮り直しになる。「オレはもう47だ!もう長回しのアクションはつらんだ!」と監督に不満を訴えてみても、「銃を持たない主人公こそがピュアなんだよ」と、まるで相手にしてくれない。プライベートに至っては、娘の親権をめぐる裁判で責められていた。「彼の映画は残虐で子供にはとても見せられない」と弁護士が捲くし立て、娘にもこんなことを言われる:「パパが出る映画がテレビでやった次の日は、私は学校でいじめれられるの」。この裁判で金も使い果たした彼は、あまり気が進まなかった次回作を仕方なく受けようとしたのだが、既にスティーブン・セガールに役を持っていかれてしまった後だった。これでは弁護士に払う金がなくなってしまう。なんとかしようとして自国ベルギーに帰ったとき、道行くファンは彼のことを好意的に受け止めてくれた。だがそこでふと立ち寄った郵便局で、いきなり強盗に監禁されてしまい、おまけに勘違いで犯人扱いされてしまうのだった。

繰り返すが主演はあのジャン=クロード・ヴァン・ダムだ。正直誰も見ないと思ったから半分ネタバレで書いてしまったのだが、内容はそのまま彼の自虐映画である。若干コメディータッチな展開だが、どうやら強盗以外の話は半分実話であるようだ。そしてそんな内容であったにも関わらず彼の演技は間違いなくマジだった。

強盗の銃の前で無力なまま、自身の半生を振り返る。英語も話せずアメリカへ飛び立ち、才能があっても成功出来ない人もたくさんいる中で彼は運よく成功を手にした。しかし成功しても満たされない心と共に、ドラックにおぼれる日々。そして一線を退く日が訪れ、自分の存在は何だったのかと問いかける。そんな彼の独白に、圧倒的に引き込まれるのはなぜなのか。この映画の中で彼は、無敵のアクションスターではなく、子供をまっとうに育てられる親でもなく、年老いた一人の男だった。そんな人間ジャン=クロード・ヴァン・ダムに、オレは徹底的に打ちのめされた。

映画の中でファンの一人が言った。「ジョン・ウーのデビュー作『ハード・ターゲット』の主演はお前だろ!あの監督だってお前との作品がなければ『フェイス・オフ』も『レッドクリフ』もなかったんだぜ!」そう、彼のファンはいるのだ。本国ベルギーにも、アメリカにも、そして日本にも。

ノック・オフ 木曜洋画劇場予告 www.youtube.com

その男ヴァン・ダム 予告 www.youtube.com