SCOOP! は 2016 年のベストオブ男映画

中年フリーランスカメラマンが新人記者の教育をするパパラッチ映画。 大根仁監督。福山雅治主演の邦画です。

出演陣のカリスマ的魅力が炸裂した大傑作でした。脚本と編集が最高すぎて福山×二階堂の日常の掛け合いですら泣きそうなぐらい興奮した。2016年の年間ベスト確定。あと2ヶ月あるけど流石に覆らないでしょって思ってる。

観終わってから思わず福山の真似をしてしまったんだけど、真面目にこんなに映画に感化されたのパルプフィクション以来かもしれない。

ちなみに中年男のロマンの映画なのでまったく女性にはオススメしない。


以下、ネタバレ。

とにかく全編見せ場だらけ。 まず、オープニング。狭い車内から、ビル街を映し出す空撮へシームレスに流れていくダイナミックな映像に心を鷲掴みにされる。 続く盗撮現場から編集部。福山のガサツな態度に、えっ、こんなキャラでアリなのってそわそわ。 そして二階堂がはじめてパパラッチするシーン。好きな芸能人のプライベートをのぞき見ただけじゃなく、陥れるようなことをほんとにやるの?という流れから、爆音 BGM とともにアドレナリン全開のシャッター。そう、これはまさに初期衝動そのものなんだ。そして、観たかったのはまさにこういう映画なんだよ! 2つ目の案件では、二階堂がやっとまともな仕事をする転機のシーン。ホテルのロビーで張ってるとき、それまでグダグダだった二階堂がターゲットの存在に福山より早く気が付いちゃう。地味な変装とはいえ女視点からしたらやっぱ芸能人てすぐわかっちゃうわけ。わざとらしくおいおいって顔をする福山。そこではじめて仕事仲間として見直すわけだ。過剰に派手な花火演出のあと、最後のカーチェイスのカメラワークに突入して、それはもう邦画とは思えないクオリティ。いやハリウッドには全然負けてるんだけど、邦画だってやり方によっちゃやれるんだよって。もう興奮を抑えきれない。 そして中盤捕まってからのリリーさん大暴れ+夜遊びする2人、犯人の撮影での2段構えと大芝居、終盤リリーさんの狂気から最後まで撮影させようという男福山。全てが絵になりすぎる映画だった。 ラストシーンがまた忘れられない。最後に車から出てくるのは二階堂と新人カメラマン。軽い会話のあと、オープニングと同じくビルの空撮に一気に飛び立っていく。また全てがここから始まることを予感させて。

主演は福山だが、本筋は二階堂ふみの成長物語。まず、とりあえず撮影やらせてみる→次に大物を狙って撮る、と前半はこんな流れだが、後半も、調子に乗って大失敗→新しいジャンルの仕事で大成功→最後の事件と1人立ち、と分かり易い。 そしてそれぞれのフェーズで名シーンがあるのは上述のとおりだ。

テレビドラマ的なストーリーテリングをそのまま映画に持ち込んでいる印象。話の切れ目がわかりやすく分割できるし連ドラ化しても全然成り立つような内容になっている。鼻に付く軽さもあるけどむしろそのノリがこの爽快感につながっていると感じて、仰々しいぐらいのほうがこの作品には合ってると納得した。

全出演者がわかりやすくキャラ立ちしており、下手な悪者や善人はおらず、潔くプロフェッショナルに徹している。 第1に福山がカッコよすぎた。やりたい放題やり続ける中年男が革ジャン+柄シャツに象徴される生き方を完璧に体現している。この圧倒的な爽快感にタランティーノ映画すら想起したよ。仕事仲間からの厚い信頼と現場を切り抜ける実行力。中年になってもみんなの憧れでありつづける。美女2人を手籠めにしても恨まれない。下品な言葉遣いすら愛おしい。これぞカリスマ。そしてやはり男は革ジャンだ。 言い方語弊があるけどアイドル俳優にはこういう役をどんどんやってほしい。映画の余韻で福山のインタビューなどをいろいろ探して観てるが普段の雰囲気と SCOOP! じゃやっぱり全然違う。俺はそのギャップに明らかにやられた1人だな。 吉田羊と滝藤賢一は嫌味な社畜編集マンかと思いきやマジにプロフェッショナルな役どころで、会社ではポジションがあるのに、個々のシーンでは福山には頭が上がんなかったりする。このあたりがとても好きな描写。それこそしっかり人間通しの信頼を描いている。 二階堂そんなに好きじゃないと思っていても毎回観る度にはじめて見たかのような衝撃を受ける。実際彼女が話を回す役なんだよね。 リリーさんは毎回ズルいぐらい最高と最低の両面をこなしてくる。登場シーンはほんとリリーさんかよっていうぐらいヤバい雰囲気だし、最後のリリーさんも登場シーンとは真逆の意味でほんとリリーさんかよっていうぐらいヤバい雰囲気だった。

BGM の使い方も極めてクールで、特に前半の撮影現場メインの展開では多幸感すら感じた。

正直女性が観ても全然だろうなと。これは完全に男の仕事の映画だよ。わがままに生きてきた中年男のロマンなんて、誰かに気を遣ったら描けない。思いっきりいろんなものを切り捨てたからこそ、男の虚勢やら哀愁やら友情が描けるじゃないかな。

作品の評価というのは自分がどうありたいかを問われることから離れられない気がしている。完全な客観的視点、言ってしまえば統計なんて個人の思いの前には全く意味をなさない。むしろ考えもしなかった妄想を突如突き付けられてこの上なく至福だったらそれは自分なんじゃないかと錯覚する。そんな価値観のゆらぎこそが評価の本質にあると感じた。

小学生の頃は映画に感化されやすくて、スターウォーズのチャンバラとかバックトゥザフューチャーのスケボーとかインディージョーンズとか真似しまくるわけです。その後中二病になるとターミネーター2、タクシードライバー、パルプフィクション、ゴッドファーザーとかもっと猛々しい感じになっていってまあ急に高校生ぐらいで落ち着いてしまったわけだけど、正直今回の SCOOP! 観た後に福山の真似をしてしまったとこをみると私にはほんと久しぶりの快感だったわけだね。