死霊のはらわたチームが到達した次世代ホラー ドント・ブリーズ

目の見えない危険人物が密室の暗闇で暴れるという思い付きだけで90分ひっぱるホラー映画。

絶叫・スプラッター・POVから距離を置いた着想から、音に注目した脚本と、1歩踏み込んだカメラワークの調和が素晴らしい良作である。

1番の好きなポイントは盲目ジジイには主人公たちが近くにいても見えてないという接近の恐怖描写。 音を出すとバレるので、主人公たちにシンクロしてまさに題名どおり息をしないで観る映画である。 温度しかわからないプレデターが主人公に気づかず近くを通過するギリギリ感に近い。その緊張感を思い出してアドレナリンがドバドバ出た。

脚本上、携帯がつながる設定が良い。本来ホラーは電話すれば逃げられる状況が多いが、今回は事情があってあえてしない、かつ、携帯の音が鳴ること自体で位置がばれるという最大の恐怖につながっている。絶叫の否定を最大限に活かしている設定は見事。

カメラも終始非常に良かった。オープニングの空からのズームアップにはじまり、家宅侵入した直後の長回しグリグリで嘗め回すところはこれから何かある不穏さがビリビリ伝わってくる。ジジイが初めて起き上がった瞬間もただならぬやばさに溢れてるし、定番の暗闇追いかけっこシーンはまさにジジイの主戦場で、暗闇で瞳を黒光りさせた主人公たちが状況そのものに恐怖する瞬間の表情を完璧に捉えていた。

それから犬もインパクトがある強敵。はじめのホラーシーンは犬が車の窓に現れるびっくり演出だし、屋外のみならず室内までも強力な敵として活躍し続ける。ジジイと犬だけでここまで描けるか!

逆に残念なところは、言ってしまえば全部びっくり系のジャンプスケアで単調なところ。中盤に地下に囚われる悶着はあるものの、罠ハウス的な陥れもなく、恐怖パターンが少ない。正直死にゲー過ぎて逃げられるとか勝てるっていう抑揚がなく気持ち疲れ。主人公が逆転できるぜ感がちょっと欲しかったかも。

全体構成は死霊のはらわたリメイクと同じ。ほぼ密室設定+綺麗なカメラワーク+後半のどんでん返しの繰り返し。つまりは死霊のはらわたリメイクを成功させたフェデ・アルバレス監督と、はらわたオリジナルのサム・ライミ+ロバート・タパートによるプロデュース作というのがしっくりくる。この制作陣が金星を引き当てたことはホラーファンとしてとても嬉しかった。 主演のジェーン・レヴィも死霊のはらわたリメイクに続き連作主演でもはやホラークイーンとして最高の仕事をしている。次作も飛躍してほしい。