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聖杯たちの騎士 = テレンス・マリック + エマニュエル・ルベツキ

中年の映画脚本家の男が出会った女性たちのイメージをタロットに重ねて、人生の虚無に向き合う内的世界を観念的映像で綴る雰囲気映画。 テレンス・マリック監督、ルベツキ撮影監督のガチファンとして鑑賞。   マリック+ルベツキによる映像は詩的で奇跡的な輝きを放っており、映し出される世界と女性は極めて美しい。だが一方で、主人公の男の心は空虚である。そしてあまり理由が明示されない父親との確執。クリスチャン・ベールお得意の何もしない演技は今回も冴えており、表面的な華やかさとは真逆の心情を全編に渡ってモノローグする。映像マニア向けな良作。   観るポイントは兎にも角にも撮影+編集。プロットは弱くセリフも断片の印象しかない。演技らしい演技も皆無に等しい。画作りを楽しめるかどうかがすべてである。 マリック監督+ルベツキ撮影には静止画やアップは極点に少なく、映像が止まることなく流れ動く。そしてそれが全て美しいのだ。マジックアワーの夕日、海辺、オープンカーでのドライブ、豪邸のプール、ガラス張りのエレベーター、子供たちが走る草原、岩だらけの山道。前作ツリーオブライフと同じく、フェチズム的な映像美で似たようなシーンを反復し、心情を世界の有り様に重ねて表現していく。飛行機や電車ならまだタイミングを計れるが魚や鳥ですら自然な一瞬をほんの小さいカットで魅せる画作りには驚嘆としか言いようがいない。   本作のプロットはないに等しいが、テーマとしては若さの勢いが一段落したある時期に陥る欠乏した精神状態を扱っている。都会に生きる中年男の我侭な心情を詩的な映像とモノローグで表現した。 主人公はそれなりに成功した脚本家だが、嬉しいとも悲しいとも言わない。空き巣に銃を向けられても怯えた様子すらない。仕事関係で豪邸に招かれるパーティ、次々と現れる女性たちとのデート、それらに笑顔で振舞っていても、全て既視感の繰り返し。モノローグで自分の心がここないことを語り続ける。綺麗すぎる映像美はむしろ皮肉のようだ。まさに空虚な人生。 それでも彼は思い続ける。進むべき道はあるのだと。 生活に特別な華やかさはなく地味な中年としてルベツキの綺麗な映像を楽しみにしていた私個人としては非常に共感できる部分がある映画だった。