【封切日に】自虐の詩【見に行きました】

父親が逮捕されるという悲しい過去を持つ幸江が、町の小さな中華料理屋で働きながら、どうしようもないヤクザ崩れのチンピラのイサオを支えていく姿を描いたギャグマンガの映画版。オレは癖で「最高、最高」と何でも「最高」扱いにしてしまい、会社の同僚の中国人にすらネタにされるぐらいよく「最高」を連発しているのだが、この映画についても、やっぱり最高だと言いたくなってしまった。原作のファンでも納得のできの素晴らしい映画だ。

監督は、『金田一少年の事件簿』、『池袋ウエストゲートパーク』、『ケイゾク』、『トリック』などテレビの第一線で活躍する堤幸彦。原作のマンガは4コマ独特のオチの作り方が活かされているので、ちゃんと映像化できるんだろうかって不安だったけど、堤監督はそれをやってのけた。ゆるい絵のマンガと、色味や質感がダイレクトに伝わる実写ではテイストは異なるが、スタイリッシュな映像が嫌みなく作り出されていた。さすが商業映画の第一人者、原作のファンの期待にも答える実力を十分に持っている。

すごいのは監督だけでなく役者もだ。中谷美紀は10年以上前から大好きなのだが、最近の『電車男』、『嫌われ松子の一生』はふつうの良さだった。悪くはないがふつう。でも今回は衝撃的な良さだ笑。30代の疲れた主婦みたいな役だが、そのリアルな雰囲気が本当にきれいでびっくりさせらせた。また、相手役の阿部寛は、そのセリフはほとんどないが、ひとつひとつがまさに殺し文句であり、役者の実力が遺憾なく発揮されていた。 本作は実力っていう言葉を心底思い知らされた。中谷美紀×阿部寛×堤幸彦の相乗効果は計り知れない。だからこの映画のおもしろさは単に原作のよさには収まらない。プロデューサもこんなシビアな原作の企画を本当によくやりぬいたよなあって感動してしまう。原作のように号泣とまではいかなかったが、こんなに長時間涙が止まらなかった映画をオレは他に知らない。