マジカル・ガール 視点スイッチ系不条理サスペンスの怪作

複数人の視点スイッチ系不条理サスペンス。   視点スイッチの構成は一般的に事実を徐々に明らかにするための手法となることが多いが、今回は意図的にミスリードを導き不条理を描く手段として最大限に機能している。娘の病気→嫁さんの秘密の仕事→先生の復讐劇と視点がスイッチどころか混乱させるトリッキーさで、この展開は静的な画と抜群の相性だった。長回し固定カメラでのっぺりした広い部屋をとらえた映像は、構図の完璧な美しさと不吉さを併せ持つ。奇異な設定+人物視点切り替えに伴う急展開が、ほぼ全シーンが長回しかつ固定カメラで描かれることで、観る者を不穏な心理状態へと陥れる。肝心な部分を映さないストイックさと逆に掻き立てられる負の想像力。後世に語り継ぐべき怪作だった。   男女のファム・ファタール的な関係を2組出す構造はわかりやすいと思うんだけど、そこをさらに宇多丸さんがコメントでマドマギを引用して「魔法少女の無垢な思いが破滅の引き金を引く」、「魔法少女はいずれ魔女になる」ってコメントしていたのはさすがだった。  

youtu.be    娘と父、生徒と先生、という2組の対比がうまい。この2組は男が同じ教師ながら文学と数学、アニメの主題歌に対し炎の少女的なフラメンコ、失業者と金持ち。そして同じように狂わされる。   ベルムト監督はまだ1作目。日本フェチな小ネタやエモーショナルな音楽使いなどタランティーノに似た部分もあるが、静かで綺麗な画面とまるで正反対の不条理展開を合わせる構成はアルモドバル的とも取れ、観はじめて開始5分でファンになった。あの娘のダンスのシーンと先生の着替えのシーンが同居する映画って何よ。この監督は天才。