パーティで女の子に話しかけるには

話の流れが特殊でよくわからないので普通の人には全くオススメしないが、私はかなり面白かった。昔のカルト映画みたいに強烈。大好き。

以外ネタバレ。

総評。

荒唐無稽な脚本に置いてけぼりにされるが、決して嫌いになれない。むしろ世界観に合わせた奇抜な編集と音楽が攻めまくりで新しい。そして突然パンクになるエルファニングはマジカルで一気に心を奪われる。完全に贔屓な女優さん。ファンなら絶対観るべき意欲作。

しかしタイトルの意味は一体なんだったんだろ。。

好きな点1つ目、話が唐突なところ。

前半のあの謎の家のパーティから明らかに飛ばしすぎw その前のライブのシーンはとても良くて、おお青春だというグルーヴ感があって、私も観ながら一緒の大騒ぎしてヘドバンしたくなったりしていたのに、その印象が一気に冷めるほど荒唐無稽。70年代SF風な世界観がいきなり始まる。

前振りが非常に下手な映画だ。あの家に入る前に不穏さを全く描かない。よくあるSF映画なら学校で宇宙船を見た噂話を聞いたりして、何かあるぞ感を出していくことが多いでしょ。そういうの全くやらないっていう。

それからラブストーリーも唐突。シングストリートみたいに恋に落ちる瞬間みたいなところを描かない。なんとなくエルファニングが居ただけ。あとは定番のルーザーのラブコメみたいに振られたりとか恋に悩むような描写もない。

最後にはドタバタがあって意図が謎。あのやさぐれ女がニコールキッドマンだってエンドロールまでわからなかったよ。

いやー、でもそれがいいんだよね。。!この荒削りなごった煮みたいな挑戦的・意欲的な演出ってまさに青春映画でしょって思った。私はこんな新しさに飢えていたんだ。。!

こういうぶっ飛び方なんだとわかってから、逆に安心して観ていられたんよ。

細かいシーンでは、恐らく観客が期待していたであろう青春グラフィティ感のある編集もちゃんとあってよかった。冒頭の自転車爆走でカメラがブレブレだったり、2人がマンションの壁にゴミを投げつけたり、公園でぐだぐだするあたりの定番な雰囲気がまさにそれ。

2点目はエルファニング。

ぶっ飛んだ脚本・編集なのに個々のシーンが絶妙なのはエルファニングのおかげ。どんなキワモノの役でもエルファニングにしてしまう強さを感じたよ。極めつけはエルファニングのパンクロック。ホント想像を絶するかっこよさ。2人の精神世界が宇宙飛んでいくあたりもやばい。何たる映像力。気持ちがぶっ飛びまくりで普通に泣いてしまった。ここだけはぶっちぎり100点。

分けわかんないけど好きって、本当に恋そのものではないでしょうか。

聖杯たちの騎士 = テレンス・マリック + エマニュエル・ルベツキ

中年の映画脚本家の男が出会った女性たちのイメージをタロットに重ねて、人生の虚無に向き合う内的世界を観念的映像で綴る雰囲気映画。 テレンス・マリック監督、ルベツキ撮影監督のガチファンとして鑑賞。   マリック+ルベツキによる映像は詩的で奇跡的な輝きを放っており、映し出される世界と女性は極めて美しい。だが一方で、主人公の男の心は空虚である。そしてあまり理由が明示されない父親との確執。クリスチャン・ベールお得意の何もしない演技は今回も冴えており、表面的な華やかさとは真逆の心情を全編に渡ってモノローグする。映像マニア向けな良作。   観るポイントは兎にも角にも撮影+編集。プロットは弱くセリフも断片の印象しかない。演技らしい演技も皆無に等しい。画作りを楽しめるかどうかがすべてである。 マリック監督+ルベツキ撮影には静止画やアップは極点に少なく、映像が止まることなく流れ動く。そしてそれが全て美しいのだ。マジックアワーの夕日、海辺、オープンカーでのドライブ、豪邸のプール、ガラス張りのエレベーター、子供たちが走る草原、岩だらけの山道。前作ツリーオブライフと同じく、フェチズム的な映像美で似たようなシーンを反復し、心情を世界の有り様に重ねて表現していく。飛行機や電車ならまだタイミングを計れるが魚や鳥ですら自然な一瞬をほんの小さいカットで魅せる画作りには驚嘆としか言いようがいない。   本作のプロットはないに等しいが、テーマとしては若さの勢いが一段落したある時期に陥る欠乏した精神状態を扱っている。都会に生きる中年男の我侭な心情を詩的な映像とモノローグで表現した。 主人公はそれなりに成功した脚本家だが、嬉しいとも悲しいとも言わない。空き巣に銃を向けられても怯えた様子すらない。仕事関係で豪邸に招かれるパーティ、次々と現れる女性たちとのデート、それらに笑顔で振舞っていても、全て既視感の繰り返し。モノローグで自分の心がここないことを語り続ける。綺麗すぎる映像美はむしろ皮肉のようだ。まさに空虚な人生。 それでも彼は思い続ける。進むべき道はあるのだと。 生活に特別な華やかさはなく地味な中年としてルベツキの綺麗な映像を楽しみにしていた私個人としては非常に共感できる部分がある映画だった。

ローグ・ワン 俺たちのスターウォーズはこれだ

スター・ウォーズEP3とEP4の間に起きた反乱軍の作戦を描いたスピンオフ作品。 スター・ウォーズのガチファンとして鑑賞。 最低限EP4は観ておいたほうが楽しめる。   中盤までは使い古されたよくあるプロットの焼き直し感があり全然盛り上がらなかったが、後半のアクションはぶっちぎり素晴らしい。やってることは過去作と全く同じでありながら本作は特に宇宙戦と地上戦を多層的につなぐ編集のうまさが際立っており気持ちの高まりを抑えられない。オマージュ以上の満足度がある良作。   本作の宇宙+地上+基地内というバトル構成はEP6の後半バトルに近似しEP7も踏襲したスター・ウォーズの定石だが、結局のところこれが最高すぎてその場で絶叫したいほどに気持ちが盛り上がる。EP7もだったけどXウィングの大群が出た瞬間に思い出すんだよ、俺たちのスターウォーズはこれだって。宇宙での戦闘機バトル、地上での基地内バトル、宇宙船周辺バトル、屋外バトルのそれぞれで、登場キャラが一気に活躍する見せ場が立て続けに、まさに津波のように押し寄せる。そして最後の最後ダース・ベイダーの無双にダメ押しの決定打を決められ、もう降参としか言いようがない。俺たちこの無双が観たかったんでしょ?! プロットの大筋がSW過去作に近似しているのにジェダイ的なワイルドカードなしで成立してしまっている理由がはじめはわからなかった。だが、ジェダイが起こしてきた奇跡的な何かを起こすためにローグワンたちは命を掛けたのだ。ほぼ全滅するという悲劇はスピンオフならではの展開だったと思うとこの戦争を描いたことは意義深い。 後半バトルについてEP7よりもローグ・ワンのほうが好きな点は、ほんとこの宇宙と地上の戦いの編集バランスに尽きる。EP7はちょっとカットが早いというか盛り上がりを盛り上げきらず描きが軽くなってしまっている印象があったが、ローグ・ワンは緊張感を途切れさせない。各場面を丁寧に描ききったことが圧倒的な満足度に結実した。 小ネタだけど電波の主電源のレバーとかデータが入っているディスクみたいな機械とか、40年前の原作のレトロSF感をわざとらしく残していたのがダサかっこよくて笑ってしまったし、スターデストロイヤーを衝突させるシーンとかガンダムちっくな自己犠牲展開で、SF界が相互に影響受けて成長している感じがしてとても興奮した。   難点を挙げれば、前半のつまらなさである。この原因は、本作の脚本には初期スター・ウォーズ的な、言うなれば80sのバディムービー的な、このチームじゃなきゃダメだ感が全然ないことだ。登場人物の心情や性格、得意分野があまり印象に無く、要はキャラ立ちしないのである。ルーク、R2D2、C3PO、ハンソロ、チューバッカの組み合わせとは差別化しようとしたチーム構成だと思うが明らかに見劣りした。あえてジェダイを出さずに反乱軍の小隊にしたのはわかるが、ドニーさん的なクセキャラ尽くしにしても良かったんじゃないか。   EP7もローグワンも新しいスターウォーズをやるためにあえて過去作のオマージュだらけにしてて心地よくお腹いっぱいになる。逆にもうこれ以上オマージュできないと思うので、次はさらなる高みを目指して頑張ってほしい。   何か小さな文句をつけようとも総合的には非常に満足です。ギャレス・エドワーズ監督はじめスタッフの皆さんには賞賛の拍手を送りたい。

死霊のはらわたチームが到達した次世代ホラー ドント・ブリーズ

目の見えない危険人物が密室の暗闇で暴れるという思い付きだけで90分ひっぱるホラー映画。

絶叫・スプラッター・POVから距離を置いた着想から、音に注目した脚本と、1歩踏み込んだカメラワークの調和が素晴らしい良作である。

1番の好きなポイントは盲目ジジイには主人公たちが近くにいても見えてないという接近の恐怖描写。 音を出すとバレるので、主人公たちにシンクロしてまさに題名どおり息をしないで観る映画である。 温度しかわからないプレデターが主人公に気づかず近くを通過するギリギリ感に近い。その緊張感を思い出してアドレナリンがドバドバ出た。

脚本上、携帯がつながる設定が良い。本来ホラーは電話すれば逃げられる状況が多いが、今回は事情があってあえてしない、かつ、携帯の音が鳴ること自体で位置がばれるという最大の恐怖につながっている。絶叫の否定を最大限に活かしている設定は見事。

カメラも終始非常に良かった。オープニングの空からのズームアップにはじまり、家宅侵入した直後の長回しグリグリで嘗め回すところはこれから何かある不穏さがビリビリ伝わってくる。ジジイが初めて起き上がった瞬間もただならぬやばさに溢れてるし、定番の暗闇追いかけっこシーンはまさにジジイの主戦場で、暗闇で瞳を黒光りさせた主人公たちが状況そのものに恐怖する瞬間の表情を完璧に捉えていた。

それから犬もインパクトがある強敵。はじめのホラーシーンは犬が車の窓に現れるびっくり演出だし、屋外のみならず室内までも強力な敵として活躍し続ける。ジジイと犬だけでここまで描けるか!

逆に残念なところは、言ってしまえば全部びっくり系のジャンプスケアで単調なところ。中盤に地下に囚われる悶着はあるものの、罠ハウス的な陥れもなく、恐怖パターンが少ない。正直死にゲー過ぎて逃げられるとか勝てるっていう抑揚がなく気持ち疲れ。主人公が逆転できるぜ感がちょっと欲しかったかも。

全体構成は死霊のはらわたリメイクと同じ。ほぼ密室設定+綺麗なカメラワーク+後半のどんでん返しの繰り返し。つまりは死霊のはらわたリメイクを成功させたフェデ・アルバレス監督と、はらわたオリジナルのサム・ライミ+ロバート・タパートによるプロデュース作というのがしっくりくる。この制作陣が金星を引き当てたことはホラーファンとしてとても嬉しかった。 主演のジェーン・レヴィも死霊のはらわたリメイクに続き連作主演でもはやホラークイーンとして最高の仕事をしている。次作も飛躍してほしい。

ブレア・ウィッチ・プロジェクトの正式続編ブレア・ウィッチは似て非なる良質POVホラー

魔女の森をさまようPOVホラーの続編。   前作のガチファンとして鑑賞。設定は同じで演出は全く違うが非常に怖かった。良作。   好きな点は、舞台をほぼ夜に振り切りPOV特有の暗闇の恐怖を充分に活かした構成。中盤から暗闇の森と穴と部屋をノンストップで押し切る展開はまばたきの隙もなく心拍数が上がり続けた。 前作から踏襲した見せないことで恐怖を引き起こすギリギリなカメラワークもアツい。手カメラ、耳カメラ、ドローンカメラ、固定カメラというガジェットのオンパレードにはPOVのジャンル的な成熟を感じる。そして最後の映像リプライズ演出もうまかった。 小ネタながら中盤の思わせぶりな足の傷も前作らしく謎の雰囲気を効果的に盛り上げている。   だが金字塔的な前作の完成度と比較すると、新規性は弱い。カメラの種類も人も増えたがドローンや固定カメラには全く恐怖要素がなかった。手カメラの切れ目をカット割りにするのも一部切りすぎな印象も。分かりやすく騒ぎ立てるだけのホラーのモブキャラは単純すぎて尺埋めかと思ってしまう。後半の穴に逃げる展開も恐怖に発展せず活かされない。本体を見せないために逆にドーンとびっくり系演出(ジャンプスケア)のパターンを駆使しているが、その回数はやや多い。まるでアトラクション的な怖さと書いている人が何人もいるのもうなづける。   すいません、いろいろ文句つけたけど、前作とは描こうとしている恐怖の種類が違うので、別の映画としてみるととても優れています。ホラーとしての出来は非常に良いです。

マジカル・ガール 視点スイッチ系不条理サスペンスの怪作

複数人の視点スイッチ系不条理サスペンス。   視点スイッチの構成は一般的に事実を徐々に明らかにするための手法となることが多いが、今回は意図的にミスリードを導き不条理を描く手段として最大限に機能している。娘の病気→嫁さんの秘密の仕事→先生の復讐劇と視点がスイッチどころか混乱させるトリッキーさで、この展開は静的な画と抜群の相性だった。長回し固定カメラでのっぺりした広い部屋をとらえた映像は、構図の完璧な美しさと不吉さを併せ持つ。奇異な設定+人物視点切り替えに伴う急展開が、ほぼ全シーンが長回しかつ固定カメラで描かれることで、観る者を不穏な心理状態へと陥れる。肝心な部分を映さないストイックさと逆に掻き立てられる負の想像力。後世に語り継ぐべき怪作だった。   男女のファム・ファタール的な関係を2組出す構造はわかりやすいと思うんだけど、そこをさらに宇多丸さんがコメントでマドマギを引用して「魔法少女の無垢な思いが破滅の引き金を引く」、「魔法少女はいずれ魔女になる」ってコメントしていたのはさすがだった。  

youtu.be    娘と父、生徒と先生、という2組の対比がうまい。この2組は男が同じ教師ながら文学と数学、アニメの主題歌に対し炎の少女的なフラメンコ、失業者と金持ち。そして同じように狂わされる。   ベルムト監督はまだ1作目。日本フェチな小ネタやエモーショナルな音楽使いなどタランティーノに似た部分もあるが、静かで綺麗な画面とまるで正反対の不条理展開を合わせる構成はアルモドバル的とも取れ、観はじめて開始5分でファンになった。あの娘のダンスのシーンと先生の着替えのシーンが同居する映画って何よ。この監督は天才。

この世界の片隅に鑑賞

切れ目なく繋がれた台詞と最小限のカットで表現された隙のない編集が神業級。喜劇と悲劇が同居する本当の日常。未読だが原作も完璧なのだろう。のんちゃんの声は主人公そのままとしか思えず奇跡的な輝きすら感じた。コトリンゴの音楽と合わせて、究極のバランスで紡がれた傑作と言える。   開始してすぐのんちゃんの声が聞こえてもう傑作を確信したよね。こんな人間性が浮き出る声があるかよって。うまいとかいう次元じゃない自然さ。劇中モノローグが重要な本作はこの配役がなかったらこんな気持ちが入り込む作品に仕上がらなかったと誰もが感じているんじゃないか。   戦中の話なのに全くノスタルジックな余韻を残さない潔いカット割りと、日常の会話ながらも途切れることなく放たれるセリフの量が軽快なテンポを醸し出しているんだけど、それが戦争とのギャップを際立ている。戦争の災禍にコメディを挟み込むというバランスの妙技。これぞ編集でしょ。   原作に忠実なのか予算なのか理由はどうあれ、ほとんどのシーンがマンガのコマのようにあまり動きをつけずシンプルな作りになっていて、のんちゃんの声やテンポの早い展開に気持ちを向けやすい。逆にアニメーションとしてのダイナミズムは空爆や時限爆弾などここぞという瞬間にだけしっかりと描かれる。この絶妙なメリハリが非常に印象的な演出となっている。